小型化した A5 を軽量化–高音部を A7化

投稿日: カテゴリー: Live AUDIO

TOA LSC-711 エンクロージャーによって ALTEC A5 が、何とか一人で持ち運べる大きさになりました。しかし高音部のドライバーが本物の A5  のままなのでたいへへん重く、ウーファーの上に乗せるるのに手間取ります。そこで高音部を A5 の ラージフォーマット(1.4 インチスロート)から A7 の スモールフォーマット(1 インチスロート)へスケールダウンする事により軽量化する事にしました。

なお ALTEC の A7 と A5 は高音ホーンのスロートサイズで区別されます。ALTEC A5 のA5 たる所以であるラージフォーマットを捨てる訳ですから、この試みは A5 から A7 への転向に他なりません。

500Hz から使える 511B ホーンを使う

本物の ALTEC A7 には 511B ホーンによる 500Hz クロスの製品と、811B ホーンによる 800Hz クロス の製品があります。811 は 511B よりもだいぶ小さくて軽いのですが、500Hz クロスの音と 800Hz クロスの音との間には無視し切れない違いある為 500Hz から使える 511 タイプのホーンを使う事にします。

511B ホーンの音

ALTEC A7  で古いジャズのレコードを聴くと、それぞれの楽器の音がやけに生々しく聴こえます。これは音源に対する忠実度が高いというよりはむしろ、511B ホーンの共振によって、倍音が補われた結果であると言えます。
511B ホーンがどれだけ激しく共振するかは、ホーンを手で叩いてみるとすぐに分かります。しっかり固定すると大分ましにはなりますが、固定しないまま前方のフィンのあたりを叩くと、金属的な共鳴音が 5秒くらい鳴り止みません。まるで打楽器のようです。ちなみに A5 の 311 ホーンはデッドニングされており、このような共鳴は起こりません。
この共鳴音が音源の再生音を補い、音の鮮度を向上させます。しかしこの共鳴音は、同時に鳴っている他の楽器音に対しては雑音になり、音を濁らせます。そしてこの悪影響は楽器の数が増えるほど顕著になります。
このホーンの鳴き(共振)が明るく艶やかな A7 の音の源ではあるのですが、大きな音出す PA 用には不向きであり、511B に手を加えるか、または他のホーンを使うかの選択が必要になります。

ホーンの比較と選択

そこでまず、手元にある 511B のデッドニング品と他社製の互換品の音を比較してみました。

ALTEC 511B オリジナル

 手が加えられていない状態の 511B ホーン。ホーン鳴きが音作りに生かされている。肉厚が薄く全域にわたって良く鳴き、明るく艶っぽい音がする。単音は鮮やかに引き立つが音数の多い場面では騒がしく聞こえる。また強度が不足している為か、基音域(1KHz 以下あたり)の音が薄い。この素の 511B は音も作りも華奢であり、大音量には向いていないように思える。
重量:約 6kg

ALTEC 511B 軟質材でデッドニング

本物の 511B の表面にシリコンゴムのようなものが厚く塗り付けられており触るとプニュプニュした感触。材料が柔らかいので補強には役立たないが、発生した振動は良く吸収できそう。素の 511B と比べると、音のモヤつきが消えすっきりしているが、511B 特有の高域の煌びやかさは消失。全体的に音はおとなしいが ALTEC 特有の艶っぽさは保たれている。
重量:約 9kg

ALTEC 511B 硬質材でデッドニング

本物の 511B の表面にシーリング材のようなものが厚く塗り付けられている。硬い素材でホーン全体を包み込む事によりホーを補強し共振を抑えている。素の 511B と比べると、音はすっきりしており全域にわたってバランスと個性を保ちつつ共振が抑えられている。ALTEC 特有のの明るさや艶っぽさも健在。ALTEC の音に拘るのであればこれが一番良さそう。
重量:約 9kg

JMTEC(ジムテック)互換品

ALTEC とよく似た製品を製造販売していたJMTEC の Queen of queen に使われていたホーン。511B とほぼ同じ形状だがフランジ部とフィンの形状が異なる。511B と同様にデッドニングされていないが 511B よりも共振は少なくすっきりした音がする。また高域の煌びやかが抑えられており、音は 511B よりおとなしい。
重量:約 5.5kg

JVC 互換品 HU-5090

JVC の A7 クローン S-660 に使われていた 511B と同形状のホーン。肉厚が 2倍近くあり見るからに頑丈。基音域(1KHz 以下あたり)の音は太く腰があり、ウーファーとの繋がりが良い。共振が少ないため音は極めてクリーン。またデッドニングされていないので金属ホーン特有の輝きが失われていない。ALTEC サウンドに拘らなければこれが一番良く、有力な選択肢の一つ。
重量:約 10.5kg

このように、ALTEC 511B とそのデッドニング品、および互換品 2 種類を試しましたが、511B はデッドニングされたたものでも、元々の音の個性が大きく損なわれず、聴きなれた ALTEC サウンドを保てれています。
また、511B ホーンは豊富な倍音に対して基音域が薄い傾向があり、中音は痩せた音に聞こえます。これを補う為にウーファーの高域を被せて膨らみを持たせています。迫力のある 511B の外観からは、太い中音を想像しがちですが、実際は ALTEC の中音の太さはウーファーの助けによるものです。500Hz から 1KHz の帯域で、中音ホーンのクリアな音にウーファーの張りのある音を被せる事により、力強さと浸透力を両立させるというのが ALTEC の音作りのエッセンスです。

という事で、どれを使うか決めなくてはなりません。今回試した 5 種類のホーンにはそれぞれに長所と短所があります。客観的な音質評価で選ぶなら JVC  の HU-5090 がベストなのですが A7 サウンドに拘るなら、硬い材料でデッドニングされた 511B ホーンという事になりそうです。

そこでひとまず、この 511B のデッドニング品を使う事にして・・・to be continued.

TOA の ALTEC 互換品

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1960年代 ALTEC 製品の輸入は阪田商会(現在のサカタインクス・海外事業部はシークス㈱に分離独立)が行っていました。そのころ阪田商会で輸入を担当者していた知人の話によると、当時 ALTEC スピーカーは高価なうえ輸送コストがかかるので、国内ではユニットだけを購入し、国産箱に入れて利用したいというニーズが強かったようです。

また輸入業者としてもユニットで輸入する方がマージンを取りやすく、その後総代理店になったエレクトリでは、国産箱を用意して輸入したユユニットを組み込んで販売していました。尤もこれは ALTEC に限らず、ジムラン(JBL)やTANNOY でも同様でした。

一方で国内のスピーカーメーカーも、この 市場に向けて商品を投入し始めていました。多くのメーカーが ALTEC  とよく似た形の大型スピーカーを製品化しましたが、その中でも TOA の動きは際立っていたように思います。

TOA  の製品には ALTEC製品と完全に近い互換性がありました。ユニットの取付寸法だけでなく、ウーファーに使われているコーン紙や HF ドライバーのダイアフラム(振動版)の規格もALTEC と同じです。このため、TOA のドライバーに ALTEC のホーンを取り付けたり、TOA のドライバーのダイアフラムを ALTEC 互換品として販売されているものに交換する事ができます。

という訳で、当方では ALTEC と TOA とをほとんど区別せず混在させて利用しています。そこでこの ALTEC と互換性のある TOA 製品をいくつか紹介したい思います。

ALTEC との互換性が高い TOA Gシリーズ        仕様書検索

ALTEC と良く似た形の製品がラインナップされている。しかし高音部にはセクトラルホーンではなく、ラジアルホーンが使われえいる。また GS-1 と GS-2 は 3 ウェイ。GS-3 は30cm ウーファーを使って A7 を小型化した、ALTEC には無い製品。当方ではこの GS-3 のエンクロージャー LSC-711 を利用している。そして GS-10 は GS-3 のユニットを、小さな箱に詰め替えたような製品。


* 上図は TOA 株式会社の仕様書から転載

HLS-3806
GS-1/GS-2 の38cm ウーファー

ALTEC 515 シリーズを想わせる外観。ALTEC の 16インチフレームと同じマウントサイズ。515用のリコーン用コーン紙と見比べても形状に違いは見当たらず、そのまま使えそうに見える。音質バランスは 515 よりも低音寄りの印象。

HFD-651 と HRH-851
GS-1/GS-2 の 高音ユニット

貴重な 1.4 インチスロートのラジアルホーン。メトリックのネジが使われているが取付ピッチは同じであり、ホーン・ドライバーともに ALTEC との互換性がある。ダイアフラムは ALTEC のラージフォーマット用のもの が使える。

GS-10 と 30-SD

GS-10 は G シリーズ唯一のステージモニター。ウーファーは 30cm の HLS-3006 で高音ホーンは HRH-311低音部・高音部ともにユニットのクオリティは高く、たいへん高音質。30-SD は別シリーズだが、同じ HF ドライバーとホーンが使われておりこれも音が良い。30-SD のウーファーにはプレスフレームの、コストダウンされたものが使われている。

GS-10 に使われている HRH-311 と HLS-3006

GS-10 に使われているユニット。高音ドライバーの品名は不明だが、ホーンはスロート径 22mm の HRH-311 で ドライバーの取付ピッチは ALTEC のスモールフォーマット( 1 インチスロート)と同じ。ダイアフラムは ALTEC と互換性がある。ウーファーの HLS-3006 は ALTEC 414 と同じマウントサイズに見える。

このように TOA 製品には ALTEC 製品との互換性があるものが多く、たいへん重宝しています。これらを入手して試してみるとどれも音が良く、これこそが「正しく進化した ALTEC の姿」なのではないか?と思ってみたりしています。

小型化された ALTEC A5の音

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試行錯誤を繰り返した結果、ALTEC A5  の風貌を保ちつつ何とか一人で持ち運べる大きさまで小型化され、音質的にも納得できるものができました。しかし ALTEC A5 の音が再現できた訳では無く、まったく別物と言えるくらい違ったものになってしまいました。

音が似ているかどうかを数値で表すと、たぶん 10% くらいになるでしょう。ALTEC A5  の音は ALTEC の主力商品として、際立った個性を持った部品を使って練り上げられたものです。この為どこを変えても音は大きく変化し、特に今回のような模造品の寄せ集めでは、同じ音を望む術もありません。

しかしそれは A5 とは音の傾向が異なるという事であり、絶対的な音の評価ではありません。また A5 ではなくALTEC 製品の平均的な音の傾向に対しては、50% くらいの ALTEC 度を達成できているのではないかと勝手に考えているところです。

とはいうものの A5 の音への未練が無い訳ではありません。特に アコースティクな音源に対する A5 の音の生々しさは垂涎ものです。このため最近は HF(高音部)に日本で販売されていた ALTEC A5 の構成に近い、311-60 ホーンと288 用純正のアルミダイアフラムを使う場合が増えきています。このプロジェクトでは本物 A5 の代用品を目指していますので、純正のALTEC 部品は遠ざけたいところですが、さすがに純正品を使うと一気に ALTEC  度が高まります。

本物の ALTEC ホーンを使う

ALTEC 純正の 311-60 ホーンを使う機会が増えてきている。311-60 は 国内向け A5 に使われていた  311-90 の水平指向性を 60度に制限したものであり、311-90 より一回り小さい。仕様上は 300Hz から使える事になっている。サイズ的にもウーファーのキャビネットと良くマッチする。

288 純正ダイアフラム

この 288用の 純正ダイアフラム 23763 を使うとALTEC A5 の音に近づく。ALTEC 創業後、この 23763 は早い時期に登場し、長期に渡って使われた。音は明るく乾いており、Hi-Fi 調でヌケが良い。まさに A5 の音造りのエッセンスでありA5 サウンドの源泉。一度聴くとこれしか無い!と思ってしまうほど魅力的な音がする。ただし許容入力(連続ピンクノイズ)は 299用 25884 の 50W に対してこちらは 15Wと極めて小さい。この為、大音量が要求される現場では使えない。尚このダイアフラムは現在でも新品が入手できる。

ダイアフラムの選択肢

上-左:純正 299用 8Ω – 25884
上-中:純正 288用 8Ω – 23763
上-右:純正 291用 16Ω – 21531
下-左:互換品 アルミ製 8Ω
下-中:互換品 アルミ製 8Ω
下-右:互換品 チタン製 8Ω
互換品を含めて多くの種類のダイアフラムがあり、今でも新品で中手できるものもある。常用しているのはこの写真の右下に映っているチタン製のもの。A5 サウンドに拘らなければ PA 用にはこのチタン製のものが最適。写真に写っているものは 21531 を除いて新品が入手できる。

クロスオーバー周波数

大型の 2 ウェイスピーカーの場合、どうしても楽器の基音や低次の倍音付近ででクロスさせることになりますので、クロスオーバー周波数の選び方によって大きく音が変化します。

500Hz、800Hz、1200Hzあたりが良く使われますが ALTEC A5 は 500Hzでクロスさせており、A5 のクリアな中音はこの低いポイントでのクロスによよって実現されています。尤も実際にクロスポイントを変えてみると、ALTEC系のシステムではあまり大きくは変わらないという印象を受けます。しかし良く聴くと周波数が上がるほど中音の明瞭度が失われ、平面的な音に変化していくのがわかります。

ALTEC A7 にはクロスポイントが 500Hzのものと、800Hz のものがありますが、ある映画館で 500Hz のものから 800Hzのものに交換したところ、任侠映画に主演する高倉健さんの声が耳元に迫って来ない、というクレームが出たそうです。もし本当にこのような違いが有るのであれば、マフィアのボスの声も 800Hz ではダメかも知れません。またジャズを聴いても同じような違いが出るかもしれません。しかし一方、これよりも高い 1200Hz あたりまで上げると音は引き締まり、ビート感のあるポップス向きの音に変化します。

N501-8ALansing Heritage から引用

50年ほど前にこんな例え話を聞いた事があます。ALTEC は 100m 先で「音楽」が聞こえた。ジムラン(JBL)は 100m 先で「音」が聞こえた。TANNOY は100m 先で「音」が聞こえなかった。というものです。真偽は別としてこれは三者の違いをうまく言い当てていると思います。この頃 ALTEC のクロスポイントは 500Hz で JBL と TANNOY は 1200Hz 付近でした。スピーカーユニットの能力もさることながらこのクロスオーバーポイントの設定が音の到達力に大きく影響しているように思います。

というわけで 500Hz でのクロスは、小型化した代用品であっても譲る事はできません。いずれにせよ HF(高音)部についてはホーン、ドライバー、ダイアフラムに多くの選択肢がありますので、ステージの内容に合わせて使い分けています。