ElectroVoice Sx200 と Sx300

投稿日: カテゴリー: Live AUDIO

当方では、オーバードライブされた小型スピーカーの音に違和感を感じ、重厚長大なスピーカーを持ち歩いている訳ですが、小型スピーカーを全く使わないという訳ではありません。

いかなる現場であっても拘りを捨てるわけにはいきませんが、やはり運搬や設置に手間取る大型スピーカは現場のニーズに合わず、どうしてもプラスチックで軽量化された小型のスピーカーが必要になってきます。

そこで良く利用するのが、ElectroVoice(EV)の Sx200 です。このSx200 はすでに生産が終了しており、現在では後継機種である Sx300 に切り替わっています。この現行機種 Sx300 は Sx200 より 3kg 以上軽量化されており持ち運びは楽ですが、音質上の問題から当方では使っていません。

Sx300 – Google 画像検索より。Sx300 と Sx200 の外観に違いは無い

メインスピーカーにポールマウントし、サイドフィルとして使用

Sx300 は小規模な現場のニーズに良くマッチし、定番化しているスピーカーですが、その音はひどくシャリシャリしており、けたたましささえ感じます。一方、旧版の Sx200 は Sx300 と同様にハイキーな音ではありすが中音域に張りがあり、帯域が狭く音数が少ない音源に対しては何とか使えなくも無さそうに思えます。ただしこれは、サブウーファーやイコライジング無しに使った場合の印象です。

スピーカーシステムは、スピーカーユニット、クロスオーバーネットワーク、エンクロージャで音質がほぼ決まります。この 3つの要素のうち、Sx200 と Sx300 との音質差に最も大きな影響を与えてえているのは、ウーファーユニットであるといえます。この事は、Sx200 に Sx300 の ウーファーを付けてみるとすぐにわかります。

ちなみに Sx200 では ウーファー に EVM-12S、そして一方の Sx300 では DL12BFH が使われています。EVM-12S は楽器及びミッドバス用、DL12BFH はウーファーとして設計されているので、両者の音質に差が生じるのは当然です。

他の 2つの要素のうち、エンクロージャはポールマウントの受穴の径が多少異なる(SX200は少し小さくて窮屈)以外、ほとんど変わらないように見えます。またネットワークについては、両者間に違いが見られます。さらに両機種とも途中で一度設計変更がが行われ HF ドライバーの低域側のクロスオーバーポイントが上がっています。またホームオーディオ向けの製品とは異なりアッテネーターが入っていません。

以下は ElectroVoice 社の Sx200 and Sx200W Service.pdfSx300 – Service Data.pdf に載せられてている Sx200とSx300のクロスオーバーネットワークの回路です。いずれも、HF 用ハイパスフィルタのコンサンサの値がやたら小さく設定されています。これはアッテネータの代わりにコンデンサのインピーダンスを利用してアッテネーションと高域補正を行っているからです。この為、実際のクロスオーバー周波数は、スピーカーに並列に入っているコイルのインピーダンスがスピーカーのインピーダンスに近づくあたりになります。現在の PA スピーカーのはとんどがこのような設計になっています。

1998年11月以前に生産された Sx200

注:上記回路図のL3の定数は、たぶん誤りです。

1998年11月以降に生産された Sx200

注:上記回路図のC2の単位が誤っています。

1999年6月以前に生産された Sx300

1999年6月以降に生産された Sx300

という訳で、不本意ながら当方でもプラスチックで軽量化された小型スピーカーを使っています。しかしその軽量化の代償は音で支払わなくてならず、その代償を少しでも小さくするために敢えて旧製品である Sx200 を使っています。

注:このサイズのスピーカーは単独で良好な帯域バランスを得る事は困難ですので、イコライジングやサブウーファーの併用を選定に設計されています。よって音質の正しい評価にはこれらによる調整が必要です。ここでの音の評価は不完全なコンデシヨンによるものであり精密なものではありません。ちなみに SX200 では XP200という専用イコライザーが用意されていました。

びわこジャズ東近江 2017

投稿日: カテゴリー: ご案内

春がやってきました。

今月4月22日(土)と4月23日(日)に開催される、びわこジャズ東近江2017 で、近江酒造・ステージ(4月23日のみ)の音響を担当いたします。

近江酒造・ステージ(4月23日)のプログラム
• 11:30~12:10 セッケンラブ
• 12:30~13:10 onion soup
• 13:30~14:10 ビタースウィート
• 14:30~15:10 増田こまえとうさぎ組バンド
• 15:30~16:10 河野圭佑

びわこジャズ東近江のお手伝いを始めたのは 2011年(第 3回)からですので、今年でもう 7年になります。また近江酒造ステージを担当するのは今回で 5回目です。

なお今回は、ステージが設置される近江酒造の敷地内で、近江酒造株式会社創立100周年記念の「蔵まつり」が同時に開催されます。

この「蔵まつり」では、近江酒造による「蔵びらき新酒蔵出し即売会」が行われ、通常の商品の他に「BJH2017記念酒」が販売されます。さらに協賛団体によるバザーが行われるなど、たいへん盛り沢山です。

協賛バザー
・ 酒粕汁(無料)
・ 炊き込み御飯
・ ポン菓子
・ イカ焼き
・ やきそば
・ おでん
・ あかねちゃんあられetc…

木工細工の体験コーナー
・ 手造り市「十人十色」

昨年は昼食のタイミングを逃してしまいましたが、今回はしっかり腹ごしらえができそうです。

という事で、今年は例年以上に賑わいそうです。

心地良い音を街角に

投稿日: カテゴリー: Live AUDIO

PA ボランティアを始めてから 10年以上たちました。

この活動を始めたのは、時折出向くライブイベントでの音への疑問がきっかけでした。ライブ会場に設置されたスピーカーからは、音楽では無く悲鳴しか聞こえてきません。まさにオーディオマニアなら卒倒しかねないようなけたたましい音が鳴り響いており、これは何とかしなくてはならない!という想いに駆られました。

その昔、PA には ALTEC 社の大きなスピーカー が当たり前のように使われていました。そしてこの PA スピーカーはレコーディングスタジオや JAZZ 喫茶でも利用され、素晴らしい音を聞かせていました。さらに現在でもこれを室内で使用しているオーディオマニアが数多くいます。この事は、昔の PA スピーカーは家庭用のものよりも音が良く、ピユアオーディオ用としても十分通用する音質であった事を物語っています。

ところが最近のライブイベントでは、たいていプラスチックの小箱に入ったスピーカーが使われ、能力を超えたパワーで駆動されています。これでは良好な帯域バランスが得られないばかりか混変調が起こり、まともな音が出るはずはありません。

要するに現在では 音質よりも利便性が優先され、PA スピーカの音は悪くて当たり前になってしまっていいるようです。そしてこれは 70年代に ALTEC から JBL への移行が始まった頃からの大きな流れのように見えます。

そしてこの由々しき流れの中で、古き良き時代の定番「 ALTEC A5」スピーカーを持ち出し、本物の PA の音を知ってもらいたいと考えました。しかし本物の A5 は持ち運べそうには無いので、代用品を使う事にしました。そこで最初に用意したのは、JBL 4560 仕様の国産箱と FOSTEX の H-251 ホーンに ALTEC A5 のユニットを組み込んだシステムでした。

スピーカーはその使命も原理も扇風機と同じですので物量が物を云いいます。そしてセオリーどおりこの重厚長大なスピーカーは充分なパフォーマンスを発揮しました。しかしこのスピーカーの大きさは本物の ALTEC A5 と大差なく、運搬に大変苦労しました。

PA ボランティア 初代のメインスピーカー

そしてその後、何種類かのスピーカを用意し現場に持ち込みましたが、結局は ALTEC A5 の形状をそのまま 12インチウーファー用にスケールダウンしたものに落ち着きました。これを 2013 年のびわこジャズ フェスティバルで最初に使用し、現在でもメインスピーカーとして使い続けています。

ALTEC A5 を独自に小型化(2013年に投入)

ALTEC VOT の画像は、サウンド与太噺 より引用

ALTEC社 1945年のカタログ を併せてご覧ください。

余談になりますが ALTEC A5 の発売は太平洋戦争が終わった 1945 年です。アメリカでは日本と戦争をしながらこんなものを作っていました。そして 70年以上経た現在でもその音への高い評価は衰えを知りません。さらに驚いた事に、発売から 70 年を経過した今もなお、このスピーカーの補修部品の供給が続けられています。ALTEC 純正の補修部品だけでなく社外品もいろいろ入手できますので、部品の交換により現場のニーズに合わせた音作りも可能です。

現場では ALTEC A5 を小型化したこのメインスピーカの他に、ステージモニター用のスピーカーを複数使用します。このモニタースピーカーについては主に既製品を利用していますが、暖色系の ALTEC トーンにチューニングしています。

ステージ(フロア)モニターも ALTEC 調のサウンドにチューニング

以下は今までにお手伝いしたイベントの一例です。

参考:

なお現在、この PA ボランティア活動の運営にご協力いただける方を募集中です。

お問い合せは yukio@jono.jp まで。

Protel DXP と Protel 2004 の記憶

投稿日: カテゴリー: CAD

大量に投入された新技術により飛躍的な進化を遂げた革新的な製品

販売時期 製品・バージョン名 備考
1991 – 1993 Advanced Schematic/PCB 1.x Protel 最初のWindows 版製品
1993 – 1995 Advanced Schematic/PCB 2.x Schematic/PCB 1.x の改良版
1995 – 1998 Advanced Schematic/PCB 3.x EDA/Client 統合環境の導入
1998 – 1999 Protel 98 Schematic/PCB 3 の32ビット化
1999 Protel 99 DsignExplorer 統合環境の導入
2000 – 2005 Protel 99 SE Protel 99 の改良版
2003 – 2004 Protel DXP DXP 統合環境の導入
2004  2005 Protel 2004 Protel DXP の改良版

 

Protel 99 のリリースが 1999年 3月で、Protel DXP のリリースが2002 年の年末ですので、その間は 4年近くあいています。アルティウムではその間いろいろな事がありました。

この間に起こった主な出来事として、ACCEL Technologies, Inc(P-CAD)の買収 、Metamor Inc(FPGA論理合成技術)の買収 、TASKING グループの買収(エンベッデッドソフトウェア開発環境)、プロテル(Protel International Limited)からアルティウム(Altium Limited )への社名変更 などがあげられます。

このようにこの間には、有力企業の買収がアグレッシブに行なわれています。、そしてこれらは「次世代の Protel ファミリーの開発のために行なわれた」と言えます。またこの企業買収よる最も大きな成果は、FPGA ハードウェアとソフトウェアの開発ツールの技術を手に入れたいれたことでした。

そしてProtel DXP ファミリーはこれらの企業買収で取得した技術の投入に加え、より洗練された統合環境であるDXP プラットフォームを導入することによって開発されました。その結果この新しい Protel DXP はただ単にツールの種類を増やしただけのものではなく、ツール間における相互の緊密な連携が可能な一体化された製品になりました。しかしその一方で、従来の回路図エディタや PCB エディタなどの、個別ツールの販売が取り止められました。

この流れはその後の Protel 2004 世代にも受け継がれ、アグレッシブに開発が続けられました。そして Nexer-Protel 2004 で基板設計とFPGA ハードウェア/ソフトウェアを一体化した統合開発環境が完成します。そしてさらに改良が続けられ、Altium Designer 6 へと進化していきまます。

このように、大きく進化した Protel DXP なのですが、市場への浸透は意外に緩やかなものでした。良くも悪くも根を張るほどに定着した Protel 99 SE との違いがあまりにも大きすぎたというのがその原因なのではないかと思います。これを補うためか、Protel 99 SE は Protel DXP はおろか Protel 2004 がリリースされた後もしばらく販売が継続されました。

プロテルは 1995 年のEDA/Client の導入をかわきりに統合一直線に進んできましたが、それもついにここまで来たか…というのが正直な感想です。 技術を持った企業を買収すれば機能を増やすのは簡単なことかも知れませんが、それを統合し魅力的な商品にまとめ上げる事は至難の業です。それを可能にしたのが新しく導入された DXP プラットフォームです。そしてそのコンセプトと基本技術がすでに 1995 年のEDA/Client で確立されていたという事実を思い起こし、その先見性と開発力に今まさらながら驚いています。

Protel DXP およびそれ以降の製品については今でもWEB サイトから、多くの情報が入手できますので興味のある方はご覧下さい。

プロテル進化論Protel から Altium Designer 6 へ
Protel DXP サポートドキュメントProtel 2004 サポートドキュメント

Protel 99 と Protel 99 SE の記憶

投稿日: カテゴリー: CAD

ポータビリティの良い DDB 統合データベースが導入されたロングセラー製品

販売時期  製品・バージョン名 備考
1991 – 1993 Advanced Schematic/PCB 1.x Protel 最初のWindows 版製品
1993 – 1995 Advanced Schematic/PCB 2.x Schematic/PCB 1.x の改良版
1995 – 1998 Advanced Schematic/PCB 3.x EDA/Client 統合環境の導入
1998 – 1999 Protel 98 Schematic/PCB 3 の32ビット化
1999 Protel 99 DsignExplorer 統合環境の導入
2000 – 2005 Protel 99 SE Protel 99 の改良版
2003 – 2004 Protel DXP DXP 統合環境の導入
2004  2005 Protel 2004 Protel DXP の改良版

 

1999年 4月に無印の Protel 99 がリリースされ、同年の12月に99 SEにアップデートされた後、2005年の3月末までの6年間にわたり販売が続けられました。後継の Protel DXP や Protel 2004 がリリースされた後も販売が続けられた超ロングセラーモデルです。

この製品は以前の Prtoel 98 のマイナーチェンジではなく、統合プラットフォームが大きく変更されされたほか、新たに伝送線路シミュレータが追加された全くの新製品です。

Proel 99 の統合環境は EDA/Client から Design Explorer に変更され、これに合わせて Microsoft Jet エンジン を利用した新しい統合データベースが導入されました。この新しいデザインデータベース(DDB)は全てののデザインデータを一つのデザインデータベース保存できるため、大変ポータビリティが良い反面、ファイルが壊れた場合全てのデータを失うという危険性もありました。またJet エンジンのアクセスコントロール機能を利用したプロジジェクト管理機能が備えられていました。

この新しい統合環境には短所もありました。ことに手軽に使える回路図エディタを求めている人にとって Design Explorer とDDB ファイルはいかにも大げさすぎるように思われました。

この DDB デザインデータベースについては私どもの社内でも賛否両論があり、いくどもその有効性についての議論がかわされました。しかし製品の信頼性が向上するにつれ急速にその評価は高まり、その有効性を疑問視する声はしだいに聞かれなくなりました。

Protel 99 に新たに加わった伝送線路シミュレータは旧 INCASES Engineering 社の SI Workbench を組み込んだもので、現在のAltium Designer 6 と同等のものです。また、アナログ/デジタル混在シミュレータは以前用いられていたDolphin Integration 社の SMASH から Microcode の XSpice 3f5 ベースのものに変更されました。

また回路図エディタ、PCB とも編集機能の改良は旧製品に対する上位互換が維持されており、旧製品のユーザであれば違和感無く使用できました。また部品シンボルに Unique ID 属性が追加され、デザインデータ間相互のリンクが強化されました。これにより回路図とPCBとの間のデータの受け渡しがネットリストファイルではなく、Update – PCB/Schematic のコマンド操作によって行なわれるようになりました。またこの製品から、ロングファイル名と日本語ファイル名がサポートされたことも見逃せません。

そして1999年12月の Protel 99 SE へのアップデートでは、それまで要望が強かった層数の追加が行なわれ、信号層が 16 から 32、内層プレーンが 4 から 16、メカニカル層が 4 から 16 に増やされました。この SE へのアップデートはマイナーチェンジとして扱われ、Protel 99 ユーザに無償提供されました。

また、この製品はライセンスがピア・トゥ・ピアでフローティングするように作られており、全てのユーザにフローティングライセンス仕様の製品が提供されました。また、統合版を購入しても Schematic/PCB 等の個別ツールのライセンスをバラバラに使用できましたので、設計者が作業を分担する場合には大変便利なものでした。

マーケティング面では、より明確に統合ツールへの方向性が打ち出されました。例えば回路図エディタの商品名は、従来の Advancrd Schematic 98 から Protel 99 Schematic に変更され、個別の回路図エディタ は Protel 99 統合ツールのサブセットとして位置付けがさらに明確にされました。

長期間販売されたこの Protel 99 SE には極めて多くユーザが存在しますので、Altium Designer ではProtel 99 SEのデザインデータベース(DDB)と個別ファイルとの互換性に対しては、磐石なサポートが提供されています。

なおアルティウムジャパンでは Protel 99 SE サポートを終了しましたが、サポートドキュメント の提供 は続けられています。

Protel 98 の記憶

投稿日: カテゴリー: CAD

統合化への方向性を明確にした EDA/Client の完成形

 販売時期 製品・バージョン名 備考
1991 – 1993 Advanced Schematic/PCB 1.x Protel 最初のWindows 版製品
1993 – 1995 Advanced Schematic/PCB 2.x Schematic/PCB 1.x の改良版
1995 – 1998 Advanced Schematic/PCB 3.x EDA/Client 統合環境の導入
1998 – 1999 Protel 98 Schematic/PCB 3 の32ビット化
1999 Protel 99 DsignExplorer 統合環境の導入
2000 – 2005 Protel 99 SE Protel 99 の改良版
2003 – 2004 Protel DXP DXP 統合環境の導入
2004  2005 Protel 2004 Protel DXP の改良版

 

名前のとおり 1998年 2月にリリースされた、Protel V3 の改良版です。このバージョンでは、今まで独立していた Advanced Route 3 が EDA/Client のサーバとして組み込まれた事以外には目立った機能の変更は行なわれず、プログラムの32ビット化とバグの修正にに焦点が絞られました。

その結果、Protel V3 よりも安定かつ高速に動作するようになりました。表面的には極めて地味な新バージョンであるにもかかわらずその堅牢さが受け入れられ、10年たった今でもまだかなり使われています。

一方、マーケティング面においてはこのリリースを機に個別ツールから統合ツールへの転換が開始されました。商品名にもこの方針が反映され、統合版にProtel 98 という社名を冠した商品名が与えられました。そしてこれを主力商品とし、個別ツールはProtel 98 のサブセットという位置づけになりました。。

また、個別ツールから統合版 Portel 98 へのアップグレードを安価に設定することにより、統合版 Portel 98への誘導が図られました。その結果 Portel 98 へのアップグレードの注文が殺到し、リリース後2ヶ月間の Portel 98の 売上げはそれまでの半年分に相当する金額に達するほどでした。(日本国内の状況)

このように Protel 98 では、マーケティング面でも統合ツールに誘導する為の施策が施され、Protel 98 での 統合路線への転換は成功を収めました。

一方個別商品に目を向けて見ると、競合商品である OrCAD Capture の改良が進んだことで、回路図エディタの選択枝が広がってきているという状況でした。Windows版回路図エディタはプロテルしかないという時代はすでに過ぎ去っており、回路図エディタの売上げを維持するためには何らかの施策が必要な状況でした。

なお Portel 98 のファイルフォマットは Protel V3 から変更されていません。この Portel 98 で使用されているPCB 3 フォーマットは、現在のAltium Designer 6でも読み書きがサポートされていますので、両者の間で PCB データを双方向でやり取りするこができます。

また Protel 98 についてはまだ WEB 上にコンテンツが残っていますので興味のある方はご覧下さい。
EDA/Client Protel 98 製品仕様 Protel 98 レポートドキュメント

3代目 Windows 版プロテルの記憶

投稿日: カテゴリー: CAD

EDA/Client 統合環境を導入した第3世代の Protel for Windows

販売時期  製品・バージョン名 備考
1991 – 1993 Advanced Schematic/PCB 1.x Protel 最初のWindows 版製品
1993 – 1995 Advanced Schematic/PCB 2.x Schematic/PCB 1.x の改良版
1995 – 1998 Advanced Schematic/PCB 3.x EDA/Client 統合環境の導入
1998 – 1999 Protel 98 Schematic/PCB 3 の32ビット化
1999 Protel 99 DsignExplorer 統合環境の導入
2000 – 2005 Protel 99 SE Protel 99 の改良版
2003 – 2004 Protel DXP DXP 統合環境の導入
2004  2005 Protel 2004 Protel DXP の改良版

 

3代目 Windows 版の Advanced Schematic 3 と A dvanced PCB 3 は、従来の Ver.2 の延長線上で改良が加えられたものではなく、 EDA/Client という斬新なシステムをベースにして作り変えられた新製品です。

EDA/Client はそれまでバラバラに提供されていた複数のEDAツールを一体化するための統合環境であり、これにより異なる種類の EDA ツールを共通のユーザインタフェイスで使用することを可能にするものです。

例えば従来のプロテル製品では、回路図入力とPCBレイアウトでは、別々のプログラムを起動することが必要でしたが、この新しいシステムでは EDA/Client を起動するだけで回路図入力とPCBの両方の作業が可能になります。この事は複数の種類の仕事をする場合でもツールの使い分けが不要になることを意味します。このシステムはその後も改良が続けられツールを統合する為のプラットフォームとして今に引き継がれています。

このシステムの導入に際しては、開発初期の段階から関係者に対してコンセプトの説明やプロトタイプによるデモが行なわれました。初期の段階では EDA/OSという仮称が与えられており、まさにベンダーの垣根を越えた共通のプウラットフォームを目指していました。私どもはこのコンセプトの先見性に感銘を受け、あらためてプロテルの将来性を確信しました。そして日本のユーザに対して製品リリースの 1 年近く前から EDA/Client のコンセプトの訴求を始めました。

実際に製品がリリースされたのは、Advanced Schematic 3 が1995年 9月で、OrCAD Capture の最初のバージョンのリリースとほぼ同時期でした。 また Advanced PCB 3 は1997年 2月であり、当初の予定より 1年以上も遅れユーザの皆様には多大のご迷惑をおかけしました。

EDA/Client はツールを統合するだけでなく、カスタマイズ機能も提供しています。このカスタマイズ機能により、メニューの日本語化が可能になったほか、オルグシステムズからはマクロ言語を使ったライブラリプレーサが提供されました。

エディタの編集機能の改良については、Schematic と PCB ではアプローチが異なりました。Schematic 3では編集機能の改良を最小限にとどめ EDA/Client によって提供される機能によって新規性を創出していたのに対して、PCB 3 では編集機能そのものに大幅な改良が加えられていました。

PCB 3 はルールドリブンのシステムに変更され配線機能もインテリジェントに改良されました。しかしその反面非常に動作が遅くなりました。当時はハードウェアの進化とソフトウェアの重量化がいたちごっこをしているような状況でしたが、PCB 3 の重量化はハードウェアの進化で補うことはできませんでした。

当時のWindows プラットフォームには、このシステムは少し重すぎたように思います。このため描画レスポンスや安定性においては以前の Ver.2.x に一歩譲る面はありましたが、新しい統合環境が受け入れられユーザの数は右肩上がりに増えてゆきました。

このAdvanced Schematic 3 と A dvanced PCB 3 の投入は営業的にも満足すべきものでしたがそれ以上に、現在でも使い続けれれている先進的な統合環境と、ルールドリブンシステムの導入に成功したことの意味は大きいのではないかと思います。

なおこのPCB 3 フォーマットは、現在のAltium Designer 6でも読み書きがサポートされていますので、両者の間で PCB データを双方向でやり取りするこができます。

また Protel V3 についてはまだ WEB 上にコンテンツが残っていますので興味のある方はご覧下さい。
Windoes PCB-CAD 導入ガイド Protel V3 サポートドキュメント

2代目 Windows 版プロテルの記憶

投稿日: カテゴリー: CAD

実用性が大きく向上した 2 代目 Protel for Windows

販売時期  製品・バージョン名 備考
1991 – 1993 Advanced Schematic/PCB 1.x Protel 最初のWindows 版製品
1993 – 1995 Advanced Schematic/PCB 2.x Schematic/PCB 1.x の改良版
1995 – 1998 Advanced Schematic/PCB 3.x EDA/Client 統合環境の導入
1998 – 1999 Protel 98 Schematic/PCB 3 の32ビット化
1999 Protel 99 DsignExplorer 統合環境の導入
2000 – 2005 Protel 99 SE Protel 99 の改良版
2003 – 2004 Protel DXP DXP 統合環境の導入
2004  2005 Protel 2004 Protel DXP の改良版

 

1994年の2月から3月にかけてリリースされたWindows for Windows 2.0 は、以前の1.x の改良版と位置づけられる製品であり、この製品の出現によりそれまでの努力が実を結び始めました。

この新しい回路図エディタ Advanced Schematic 2.0では、TrueType による日本語、タイトルブロックのカスタマイズ、他のWindows アプリケーションとのクリップボード経由でのコピーアンドペーストが可能になりました。また Advanced PCB 2.0 では、Porigon Pour の改良、パッドスタックのサポート、画面上でのオンライン編集機能、PADS 2000 の読み込みなどが実現しました。またリリース後まもなく、Schematic と PCB の両方ともドングルによるコピープロテクトが廃止され、なんら手を加えること無しに PC 98 環境で使用することが可能になりました。

当時の PC プラットフォームはまだまだひ弱でしたので、安定性や処理速度に不満が残りました。しかし上記のような基本機能の改良により、実用性は大幅に向上しました。

当時のラインナップはつぎのとおり。
・ Advanced Schematic 2.x 120,000 円 – 148000 円
・ Advanced PCB 2.x   398,000 円
・ Professional PCB 2.x   198,000 円

Advanced Schematic は価格改定とキャンペーンによる価格変動がありましたが、120,000 円で販売されていた時期が最も長かったように記憶しています。またProfessional PCB はAdvanced PCB から自動機能を省いた製品であり今思うと大変お買得な製品でした。

当時の競争相手は、Schematic が OrCAD 、PCB が Tango という構図でした。しかし OrCAD には Windoiws 版はなく、Tango は Protel より出遅れていたにもかかわらず大変高価でした。このため、プロテルはシリアスな競争にさらされることはなく、Windows CAD のリーディングブランドとしての地位を得ることができました。

そしてこのポジションを磐石なものにするため、広告宣伝の強化のサポート製品の整備を進めました。トランジスタ技術誌への広告は、従来の1ページから2ページ見開きに増やしました。広告やカタログのレイアウトにおいても、当時のプロテルのカンパニーカラーである黄色を多用し極めて目立つような配色にこころがけました。またサードパーティからもプロテルをサポート商品が次々と現れ、最終的には次のようなものが出揃いProtel for Windows 2.x の販売を後押ししました。

・ FontMan
・ オルグシステムズの TechLib-SCH 回路図シンボルライブラリ
・ CAD サービスの回路図シンボルライブラリ
・ 明光電子の PCB フットプリントライブラリ
・ 部品表太
・ RSI トランスレータ
・ MaxRoute
・ CCT SPECCTRA
・ HyperLynx BoardSim
・ ECAM / CAM350
(これらには1.0世代から存在していたものも含まれています)

Protel for Windows 2.x は 次の Ver.3 がリリースされるまでの間、0.1 刻みの小刻みなリビジョンアップが繰り返されました。特に PCB では頻繁にアップデートが行なわれ、その結果バージョン番号は 2.8 まで達しました。またこのPCB 2.8フォーマットは、現在のAltium Designer 6でも読み書きがサポートされていますので、両者の間で PCB データを双方向でやり取りするこができます。

プロテル製品の販売はこの Protel for Windows 2.x のリリースによって急速に伸び、浜松の大手電子楽器メーカに大量にも採用されるなど、旧テクスパート地元のお客さまにもご愛顧いただきました。

Protel for Windows 2.x は名実ともに 「Windows のプロテル」の地位を得、 Schematic 3(1995年 9月) とPCB.3 ( 1997年 2月)がリリースされるまでの間大量に出荷されました。

初代 Windows 版プロテルの記憶

投稿日: カテゴリー: CAD

世界初の Windows PCB ツール

販売時期  製品・バージョン名 備考
1991 – 1993 Advanced Schematic/PCB 1.x Protel 最初のWindows 版製品
1993 – 1995 Advanced Schematic/PCB 2.x Schematic/PCB 1.x の改良版
1995 – 1998 Advanced Schematic/PCB 3.x EDA/Client 統合環境の導入
1998 – 1999 Protel 98 Schematic/PCB 3 の32ビット化
1999 Protel 99 DsignExplorer 統合環境の導入
2000 – 2005 Protel 99 SE Protel 99 の改良版
2003 – 2004 Protel DXP DXP 統合環境の導入
2004  2005 Protel 2004 Protel DXP の改良版

 

プロテルはDOS 版 PCB-CAD の開発を打ち切った後、1991年に世界初の Windows PCB ツールとして Advanced PCB 1.0 をリリースします。

当時の私たちのビジネスは PADS-PCB ツールの販売が主力であり、まだプロテルの輸入販売元としての業務を行なっていませんでした。私たちが輸入販売元としてプロテルの Windows ツールの販売を開始したのは、1993年1月の EDA TechnoFair からです。しかし主力においたのははPCB ツールではなく、回路図エディタの Advanced Schematic でした。

プロテルの代理店になることを決めたのはこの前年の1992年の末です。アナハイムの Wescon ショーで展示されていた Advenced Schematic に感銘を受けその場で代理店になることをきめました。当時の私たちは Advenced Schematic が業界標準になることを確信しており、 プロテルビジネスに投資する事に対して何の懸念もありませんでした。

この Advenced Schematic では、 OrCAD SDT(DOS)のWindows 版というコンセプトが明確に打ち出され、そのコンセプトが適確に実現されていました。またその端正な面構えと Windoes 標準に忠実に準拠したセンスの良いユーザインタフェイスに一目惚れし、もうこれ以外には何も目に入らないほどの状態でした。一方 PCB エディタの Advanced PCB はこの頃すでに Ver. 1.5 にバージョンが上がっていましたが、いまひとつ魅力を感じることができませんでした。

とにもかくにも私たちは、この Protel の取り扱いを機に積極的な販売戦略を策定/実行し、 PCB 設計業者から CAD 販売業者への転換を始めました。いま当時の状況を振り返ってみると、その後の Protel ビジネスの骨格がこのころ確立されたことがわかります。

・ VAR 販売チャンネルの設定
・ 流通販売チャンネルの設定
・ 雑誌広告を毎月掲載
・ 年 4回のニュースレター(Tech Express)の定期送付
・ 年2回のトレードショーへの出展
・ 回路図とPCBの国産部品ライブラリの提供
・ カタログの大量配布

とにかく OrCAD という巨人が目の前に立ちはだかっていたわけですから、OrCAD の Windows 版が出る前にいかに知名度を上げ、販売実績を残すかということが差し迫った課題でした。当時の私たちには「何が何でも プロテルを公衆の面前に露出させる」という、執念めいた想いがあったように思います。

これらの戦略の実行にあたっては、資金不足以外に大きな障害はありませんでしたが、いくつか想定外のこともありました。特に流通チャンネルを通じて全国にカタログを配布する場合、最低でも 10,000枚くらい用意しないといけないことがわかり、流通販売チャンネルの設定後、それまでの 10倍以上の量のカタログが必要になりました。

当時はまだ誰もプロテルの名前を知らないわけですから、まず知名度を上げることが必要でした。そこで直近の微々たる売上げに努力するりもまず、メディアへの物量の投入によりブランドを露出させることを優先しました。このために、雑誌広告やカタログに はプロテルのロゴを大きく目立たせると共に Advenced Schematic が OrCAD互換であることを明示し、OrCAD のWindows 版というコンセプトを強く訴求しました。

そしてこのような営業努力の結果半年後くらいには、いくらかプロテルの存在が認知され始めました。また製品の能力に対してもおおむね良好な評価を得ることができ、少量ながらもコンスタントに売れ始めました。

余談になりますが、このころ国内最大手の PCB-CAD ベンダー様から Advanced Schematic の引き合いがあり、研究用見本として 1本お買い上げいただきました。 開発/設計現場だけでなくCAD 業界にも Protel の存在が認知され始めたことを実感させる出来事でした。

機能面においては Advanced Schmatic 1.0 の特徴である OrCAD 回路図とライブラリの読み込みと書き出し機能、およびWinmdows に準拠した洗練されたユーザインタフェイスは大変好評でした。しかし残念なことに、回路図上に日本語を書き込むことができませんでした。

一方 Advanced PCB 1.5 では、32ビットのデータベースによる 0.001 mil の分解能の実現と、無制限のデータベースサイズのサポートにより、極めて精細度の高い基板や大規模な基板の設計が可能になりました。しかし、パッドスタックがサポートされていないことや、Polygon Pourを同一ネットのパターン上に重ねて配置できない点など、プロフェッショナルな用途には不十分な部分も残っていました。

また、Advanced Schmatic および PCB の双方ともドングルにより不正コピーに対するプロテクトが行なわれていましたので、IBM PC 用ドングルにアクセスできないPC98 環境では使用することができませんでした。このためサードパーティからPC98 用プロテクトキーインターフェイスボードを調達することにより、PC98 環境での動作を実現しました。

当時このAdvanced Schmatic および PCB には Protel for Windows というファミリー名が与えられました。この初代 Protel for Windows は当時のひ弱なPC プラットフォームでは充分な能力を発揮することはできませんでした。しかし Windows のトレンドに対する整合性は完璧でした。このため、 「Windows のプロテル 」というブランディングには最適な商品であり、Windows CAD 市場に絶好のコンデションで船出することができました。

プロテル DOS製品の記憶

投稿日: カテゴリー: CAD

Windows 前夜の製品である、プロテルのDOS版PCB ソフトウェアに関わる記憶をたどってみました。

Windows PCB-CAD の先駆者として知られるプロテルも、1991年に最初の Windows 製品である Advanced PCB 1.0 .がリリースされる前は、DOS製品を開発し販売していました。

1996年に最初の DOS 製品がリリースされた後 1989年にDOS 世代最後の製品である AutoTrax に至るまでにいくつかのバージョンが存在しますが、 AutoTrax 以前には日本に代理店はありませんでした。 プロテルはこの AutoTrax のリリースに合わせて日本に代理店を設定し、日本市場への参入に際してIBM-PC 版だけでななく PC-98版も用意しました。

Windows 版の Advanced PCB がリリースされた後も、Autotrax は DOS Pack の名称で販売が継続されました。DOS Packは、AutoTrax と DOS Schenatc がセットにされたもので、価格は 98,000円と大変安価でした。また、リリース直後のAutotrax にはドングルと呼ばれるセキュリティデバイスによるコピープロテクトがおこなわれていましたが、1993年に販売が開始された DOS Pack以降 このドングルは取り払われました。

また、AutoTrax の前に PCB 3という PCB パッケージがあり、これが Accel 社に OEM 供給され Tango Series I として販売されていました。その後Accel 社は自社開発によるTango Series I I に移行します。この Tango Series I I と Autotrax との間には一見大きな違いは無いように見えました。しかしTango Series I Iには Autotrax には無いマニュアルポリゴンの配置機能がありましたので、アナログ基板設計では、使えるか使えないかの判断の分かれ目になり得るくらいの大きな差があったかも知れません。

余談ですが現在、このAutotrax と その直前のバージョンである Easytrax(おそらく”PCB3″=”Tango Series I” =”Easytrax”)はフリーソフトとしてアルティウム社から無償で提供されており、以下のページからダウンロードできます。

http://techdocs.altium.com/display/ALEG/Freeware+downloads

また、Autotrax はその後、当時のMicrocode社にライセンスされます。そしてMicrocode社によってWindows に移植され、TraxMaker という商品名で販売されます。このTraxMaker は機能および PCB ファイルとも Autotrax 寸分違わず、まさに Windows 版 Autotrax そのものでした。

当時のDOS製品は、データ幅およびアドレッシングの両方で 16ビットの制限を受けていました。Autotrax はレイアウトデータおよびプログラムとも 16ビットでしたが、EMS がフルサポートされていたので大規模な基板の設計もできました。一方、ほぼ同時期に日本に上陸した PADS は レイアウト後のフットプリントデータを EMS エリヤに置けず、大規模を設計することができませんでした。

その後 PADS はこの制限から逃れるため、 PharLap の 386DOS-Extender を利用した 32 ビット版である PADS 2000に移行します。一方プロテルにも Phenix というコードネームの次世代 DOS プロジェクトがあったようでしたが、結局DOS版はこれで打ち止めにになり、これ以後 Windows にフォーカスされることになりました。そして1991年にリリースされたのが世界で最初の Windows PCB ツールとして有名な Advanced PCB です。 

このWindows 版への移行の後も Autotrax とは双方向の互換性が保たれており、Advanced PCB 2.8まではAutotrax ファイルの読み込みはもちろんのこと、保存もできたように記憶しています。

後にプロテルの国内販売元になったテクスパートは、当時 PADS を使って基板設計を始めたばかりであり、プロテルと運命を共にすることになろうとは夢にも思っていませんでした。

PSpice の記憶

投稿日: カテゴリー: CAD

1995年にテクスパートでは、MicroSim(現在ではOrCAD)PSpice の販売を開始しました。

当時テクスパートでは、日本にまだ紹介されていないツールやあまり知られていないツールを輸入して国内に紹介するのが仕事でした。しかしPSpice は当時、シミュレータのトップブランドとして知名度は抜群でした。しかも日本支社(通称マイクロシム・ジャパン)も存在し、それまでのテクスパートの取扱い商品とは大きく異なるものでした。

なぜこのような毛色の違う商品を扱うようになったかといえば、それは Protel からしミュレータが出てくるのを待てなかったからです。当時まだOrCAD Capture がリリースされておらず、OrCAD SDT(DOS) のリプレースとしてProtel の回路図エディタ Advanced Schematic が大量に販売されていました。そしてこの多くのユーザの方々から切望されていたのがアナログシミュレータであり、出せば必ず売れるという状況でした。

そこで、当てにできない Protel シミュレータの代役として目をつけたのがこの PSpice でした。また、Protel のシミュレータがリリースされた場合でも、PSpice なら一味違う専門ツールとして Protel と併売できるのではないかという予測もありました。

PSpice の販売開始にあたっては、他の取り扱い商品のような手間のかかる仕事はほとんど存在しませんでした。まず、商品を輸入する必要がありません。またマニュアルの作成や大規模な広告も不要です。日本支社(通称マイクロシム・ジャパン)が全てやってくれるからです。そしてなによりも PSpice はすでに日本でのブランディングが完了した商品であり、極論すれば、種蒔きが終わり成長した作物をただ刈り取ればよいという状態でした。

この時テクスパートに不足していたのは、シミュレータ販売に関する実績とノウハウでした。そこでこれを補うための手っ取り早い方法として最初に実行したのは、マイクロシム・ジャパン内にサポートブランチを設置することでした。

代理店契約を終えた後、すぐにマイクロシム・ジャパン内にブランチを設置し、1年の間、社員一人を常駐させました。そしてここで、マイクロシム・ジャパンの専門スタッフの指導を受けながら、セールスと販売後のサポートに必要なテクニカルな業務を行いました。実質的には、マイクロシム・ジャパン内に営業拠点を置いているようなものであり、失敗するはずのない方法でした。そして、思惑どおりこの方法が功を奏して、短期間にPSpice のビジネスを立ち上げることができました。

セールス/サポートドキュメントを作成するための情報も豊富でした。書籍、マイクロシム社の販促/技術ドキュメントなどが豊富にあり、これらのリソースを利用することもできました。これらのを利用してチュートリアルブックを作成しましたがこの時ひとつ大きな過ちを犯しました。それは競合する PSpice 代理店様のドキュメントから、無断で内容を引用をしたことです。この代理店様からのご指摘を受けすぐにこのドキュメントを回収し破棄いたしましたが、競合代理店様をはじめ多くの方がたにご迷惑をおかけしたことを、今あらためてお詫びいたします。

このころ、短期間に多くの方々に PSpice をご購入いただきましたが、Protel とは関係なく、単独で PSpice をお使いになられるユーザの方に方が多かったように記憶しています。いずれにせよしばらくの間、PSpice の売り上げは順調に伸びて行きました。

Protel と PSpice との併売において問題が露見し始めたのは、MicroSim 社が Massteck の技術を導入して、PCB ツールをリリースしたころです。たしか1996年か1997年の初めくらいだと思います。そしてあまり間をおかず、MicroSim 社はPCBを含めた全てのMicroSim 社のツールをひとつにまとめた、DesignLab という統合製品をリリースします。商品の性格はかなり異なりますが、Protel が目指している統合化の方向とは酷似したものでした。

確かこの DesignLab の価格は200万円を超えていたように思います。当時の日本のマーケットには受け入れられるはずのない製品でしたが、統合の Protel を打ち出そうとしている矢先に MicroSim に先を越されて統合のお株を奪われてしまっては困ります。たしかラスベガスのDACショーだったと思いますが、この DesignLab が発表されたときには本当にあわてました。とにかく統合ツール = Protel のイメージがこれによって削がれてしましと困りますので、急きょ帰りの飛行機の中で、Protel 全商品を組み合わせたパック商品 Smart Combo を企画しました。そして次の日、日曜日でしたが休日出勤してチラシを作り、その翌日の月曜日にProtel の統合ツールとして打ち出しました。

そして 1997 年の終わりころ、MicroSim 社は OrCAD 社に買収されました。 これにより重荷になり始めていたMicroSim /PSpice との関係が消滅しました。この時すでに Protel の シミュレータがあり、テクスパートでの PSpice 役目はすでに終わっていましたので、これ以上PSpiceに固執する理由もありませんでした。