A5 小型化品の軽量化に向けて、使用する高音ホーンをいろいろ試しましたが、ホーンの重さはどれも今までのものと大差無いため、軽量化の成否はドライバーの重さに依存します。
ドライバーをサイズダウン
ドライバーのサイズを比較
左:ALTEC 299 13.8kg
中:ALTEC 802-8G 3.2kg
右:ElectroVoice DH3 1.9kg
* 写真の 299 は YAMAHA 向けモデル
現在使用しているラージフォーマットの ALTEC 299-8A ドライバーの重さは、13.8kg です。ALTEC 511B ホーンに標準的に使われるスモールフォーマットの 802-8G は 3.2kg ですのでこれに代えるだけで 10kg も軽くなります。しかしこの 802-8Gの許容入力は 8W(500 Hz – 20 kHz 連続ピンクノイズ)しかありませんので安心して大きな音を出せません。
大きな音を出す為には、耐入力の大きなドライバーを使うか又は耐入力の大きいダイアフラムに交換する事が必要です。ドライバーは ALTEC のスモールフォーマット(1インチスロータ)であればどれでも使えます。またアダプタを介せば JBL やその他のメーカのものも使用できます。
またダイアフラムは、今でも純正品や社外品が販売されており、いろいろなものが簡単に手に入ります。802-8G の純正ダイアフラムは真空管アンプの全盛期に開発されたもので、耐入力は 8W しかありません。新しい世代のものであればどれを選んでも耐入力は上がるはずです。とはいうものの耐入力が示されていないものが多く一抹の不安は残ります。
という事でまず、手持ちのドライバーとダイアフラムをいろいろ試してみました。ドライバーのの能力を引き出す為には、イコライジングが必要になりますが、ここでは手間を省く為にフラットな状態での比較に留めています。
ドライバーの選択肢
手元にあった 11種のドライバー
マウントアダプタを使えば、スクリューマウントのElectroVoice DH3 を 511B ホーンに取り付けられる。
まず手持ちの ALTEC、JMTEC、JBL、CORAL、Fostex、Victor、ElectroVoice 等のドライバーの音を比較してみました。
ALTEC 802-8G:
ふくよかな中音と明るくヌケのよい高音。34647 アルミダイアフラムとアルニコ磁気回路による典型的な ALTEC サウンド。
ALTEC 802-8D:
ALTEC A7 と共に 1954 年に登場した 802-8G の一つ前の製品。タンジェリンフェイズプラグが導入された 802-8G と聴き比べると、やはり高域は伸びきっていない。
ALTEC 902-8G とその組込用:
802-8G のマグネットをフェライトに変更した製品で、外装を簡素化した組込用の製品もある。802-8G と比べるとふくよかさはいくらか失われているが、全体的には 802-8G と大差ない。
JBL LE-85:
ダイアフラムを 2421 純正のチタン製のものに交換。歪感の少ないハイファイサウンドで、今回試したものの中で最もワイドレンジ。
JBL Selenium D220TI :
ブラジルで生産された安価な JBL ブランドの製品。アルミのダイアフラムらしく音はふっくらしているが、すっきりせず浮腫んだような印象を受ける。
JMTEC:
オリジナルダイアフラムが断線しており本来の音は不明だが、ドライバー自体は ALTEC よりハイ上がりに設計されているようで、高域がダラ下がりのダイアフラムを使ってもそこそこバランスがとれる。
Fostex D252:
クールで爽やかな印象の音。線は細いが刺激的な音はしない。
Victor PS-D311:
中音は太く高域がダラ下がり。音は滑らかなので高域補正すれば使えそう。
CORAL M-100:
ALTEC 802-8G よりもやや細身ではあるが 802-8G のようなふくよかな中音とヌケの良い高音が出る。802-8G よりも 2-3db 高能率。アルニコマグネット。
CORAL M-104:
CORAL M-100 のマグネットをフェライトに変更してコストダウンしたような製品。M-100 と比べると全体的に音が薄くなっており、M-100 のような中音のふくよかさは大分失われているが、それでも十分に良い音がする。
ElctroVoice DH3:
わずか 1.9kg の ElectroVoice 定番ドライバー。ダイアフラムがチタンであるにもかかわらず ALTEC に近いバランスの骨太い音がする。サードパーティー製のチタンダイアフラムに交換すると、高域が伸び、ハイファイサウンドに一変する。802-8G より 3-4db 高能率。外観からは想像できない本格的な音。
以上、ここでの音質確認では、各ユニットの規格を無視して、ALTEC 標準回路の 500Hz のクロスオーバーネットワークを使いましたが、ユニットの規格に従い 1kHz 以上で使う場合には音の評価はだいぶ違ってくるはずですので、ここでの評価をそのままうのみにはしないでください。
尚 CORAL、Fostex、Victor のドライバーは、入手しやすい ALTEC または JBL のダイアフラムとの互換性が無く、メンテナンスが困難です。尤も、アダプタの併用で市場に出回っているほとんどの 1インチドライバーが使えますので、あえてこのような骨董品を使う必要はありませんが・・
アルニコとフェライト
今回聞き比べたドライバーの中ででは、ALTEC 802-8D/802-8G、JBL LE-85、CORAL M-100 の音が良かったが、これらは全てアルニコマグネットが使われています。これらはどれも、柔らかくて透明度の高い音がします。これはウーファーでも同じで、アルニコの JBL 2220B とフェライトの 2220H を比べると同様な音の違いがみられます。どうやらアルニコ時代に丁寧に作られた製品には、音の良いものが多いようです。しかし古いものは音が良くても耐入力が足りず、安心して使えるものはほとんどありません。
ダイアフラムの選択肢
ヤフオクやアマゾンに 5,000円以下の価格で出品されている互換品。音色は純正の 34647 に近く、高域補正により 34647 に近い帯域バランスを得る事ができる。
手持ちの 7種類のダイアフラムを 802-8G に取り付けて音質を比較しました。
ALTEC の Pascalite 26420 ダイアフラムはアルミの 802-8G 純正(34647)を比べて高域がダラ下がりだが歪感は少ない。高域補正でバランスが取れますが 34647 のような明るくヌケの良い音はしません。Synbiotic 34726 ダイアフラムは純正アルミの 34647 より高音が出ませんが 26420 のようにダラ下がりではなく肩が張っているので、さほどハイ落ちには聴こえません。
Radian 1228 は線が細く高域がダラ下がりで、聴きなれた ALTEC の音とは大きく異なります。After Market の名で売られているもののうち、アルミ製のものは高域ダラ下がりで補正無しでは使えませんが、チタン製のものはフラットな特性を持ち歪が少ないクリーンな音がします。
またヤフオクに出品されていた無名の安価なアルミ製のダイアフラムを入手して試したところ、意外にも 純正の 34647 に近いバランスの音がしました。この無名のダイアフラムはアマゾンにも出品されています。
平均的に、アルミ製のものはチタン製よりも能率が高く ALTEC オリジナルに近い音がします。またチタン製のものはアルミ製のものよりも高域が伸びており端正な鳴り方をします。
なお、ここで紹介したダイアフラムのうち Synbiotic 34726 以外は新品の入手が可能です。
マウント変換アダプタ
最近、いろいろなマウント変換アダプタが入手ができるようになり、ドライバーとホーンの自由な組み合わせが可能になりました。特に重宝しているのは、エミネンス社の S2B-A と B2S-A です。これは 1インチのスクリューマウントと ALTEC 2穴/JBL 3穴を相互に変換するものです。さらに S2B-A に B2S-A をねじ込んで使うと、ALTEC 2穴とJBL 3穴を相互に変換する事ができます。これを使えば市場に出回っているほとんどの 1インチドライバーを ALTEC 511 タイプのホーンに取り付ける事ができます。なおこのアダプタは、サウンドハウスから 1,000円以下の価格で入手できます。
規格外のドライバーを使う
HFD-651-8
スロート径をスモールフォーマット(1インチ)に変換する事により、511B ホーンにラージフォーマット(1.4インチ)のドライバー取り付ける事ができます。TOA のHFD-651-8(旧製品)はラージフォーマットですが重量は ALTEC 299 より3.8kg 軽い 10kg です。しかもダイアフラムは ALTEC と互換性があります。ALTEC 純正の変換アダプタは 21216 という品番で GPA(Great Plains Audio )から入手できましたが、納期まで待てなかったので自作し、今もこの自作品を使っています。
この TOA の製品は ALTEC の音を継承しており耐入力も明記されているので、安心なのですが、できればもう少し軽くしたいところです。なお写真に写っているダイアフラムは TOA のものではなくファンテックから購入した ALTEC 用のチタン製のものです。
TOA HFD-652
TOA には ALTEC の規格通りに作られた HFD-352 と HFD-651 HFドライバーがありますが、単体販売されていないものの中には、ALTEC には無い中途半端な規格のものがあります。
GS-10/30-SD の高音ホーン部のスロート径は 20mm くらいであり、ダイアフラムは ALTEC スモールフォーマット規格のものが使われています。また組込み用の HFD-652/HFD-653 のスロート径は 30mm くらいで、これには ALTEC ラージフォーマット規格のダイアフラムが使われています。 この HFD-652 と HFD-653 は防塵メッシュの有無以外は、ほとんど変わらないように見えます。重さは 7.5kg で、ALTEC 299 の半分強ですのでこれを使えばだいぶ軽量化できます。
そこで、スロート径を 30mm から 25mmくらい(1インチ)に縮めるアダプタを作ってホーンに取り付け音を確認したところ、A7 オリジナルの 802-8D/802-8G のバランスに近く、無補正で使える事が分かりました。
このドライバーの重さはちょうど 802-8G の 2倍であり決して軽くはありませんが、パワーハンドリングと保守性、および ALTEC サウンドの継承といった観点から、これが最良の選択であるとの結論に達しました。
スケールダウンの成果
今まで使っていた 1.4 インチ(A5・ラージフォーマット)から1 インチ(A7・スモールフォーマット)への移行で高音部が軽量化できました。
TOA HFD-652 を付けたホーンに持ち運びの為の木枠を取り付け、重さを計ったところ 21kG でした。今までのものが 27kg ですので 6kg 軽くなった事になり、運搬や設置がすこしは楽になるはずです。
写真の下に写っているのが今までのもので、その上にあるのが今回のものです。両者を比較すると奥行が短くなっているのが分かりうます。また水平指向性も 60度から 90度に広がりました。
新旧ホーンの大きさの違い
また ALTEC 音の継承を前提とするとこれがベストの選択ですが、その拘りを捨てると別の選択肢もあります。
今回の試みの過程で、JBL LE85(実質的には 2421)と Victor HU-5090 の音の良さを確認しており、機会があればこれも使ってみたいと考えています。
LE85 と HU-5090
ワイドレンジで歪感の少ないハイファイサウンド。
LE85 のダイアフラムは 2421 用の純正品(チタン)に交換。
ホーンとドライバーの合計重量は 17kg だが持ち運びの為の木枠の重さが 5kg あるので総重量は 22kgになる。
余談
このサイトではビンテージ ALTEC に拘りいろいろな試みを紹介しています。今回使用したスピーカユニットの規格は Voice of the Theatre が発売された 1945年にはすでに確立しており、その後ほとんど変わっていません。1945年といえば日本が戦争に敗れポツダム宣言を受諾した年です。アメリカ人は日本と戦争をしながらこんなものを開発していいました。
そしてさらに驚くべき事に、現在でもこの規格のダイアフラムやボイスコイル・コーン紙などが供給されており、これらを使って 70年以上も前に製造されたスピーカーをメンテナンスする事ができます。