Massteck と言ってもご存知ない方が多いと思いますのでまず概要を紹介しておきます。
Massteckは、1988年くらいから自動配線ツールを開発/販売していた会社で、初期のツールとして、PADS にOEM 供給されていたPADS Push’ N Shove や MaxRoute があります。自社ブランドの商品として、MaxRoute(自動/半自動押し退けルータ)、MaxPlace(クラスタ・プレースメント)、MaxEDA(PCB-CAD)などがありましたが、実際の収益は、OEM や ソースコードの販売に頼っていたように思います。この OEM/ソースコードの販売先として、当時の PADS、MicroSim、CADIX などがあります。
所在地は米国マサチューセッツ州 ボストン近郊のリトルトンという町です。オフィスは小さな森の中にあり、当時の PADS 本社とは、100 メートルくらいしか離れていませんでした。
経営トップは、Dancouse(創業初期)、Al Ackerman (末期)が務めていましたが、実質的なキーマンは、ソフトウェアアーキテクトの DR. Wadland でした。彼は Mssteck が OrCAD に買収される少し前に、新たに開発した NeuroRoute で、HG. Marsh(PADS の創業者)とNeuro CAD 社を起こしています。そしてOrCAD によるMassteck の買収とほぼ同時期に、このNeuro CAD 社をProtel に売却しています。技術だけでなく、M&Aの時流に乗るセンスもあったようです。
Massteck は、私たちが初めて代理店契約を結んだ CAD ベンダーです。ここから私たちのCADツールの輸入業務が始まりました。そして同時期に Massteck から CSI (CAD Slution Inc.)を紹介され、CAMツール(ECAM)の輸入を始めます。そしてその後、芋づる的に人脈が広がって行き輸入品目を拡大することができました。
私が、最初に MaxRoute を目にしたのは1990年の終わりくらいだったと記憶しています。当時米国でCAD 販売を行っていたCAD Concept (日本語を話す Ken Auga 社長)からマクロキーボードを送ってもらった時、MaxRoute のオートデモが同封してありました。それを見てその能力に驚くと共に、Windows(2.1xのランタイム版が付属)環境で動作することにも先進性を感じてすぐに販売することに決め、社内のPCB 設計にも使用しました。
1991年以降、関東圏を中心に精力的にデモを行いました。このとき、CADIX でも同じデモを見たという話を良く聞きました。このころから、CADIX と Massteck との間でコンタクトが始まっていたようでしたが、後に CADIX にMaxEDA ソースコードが販売されます。そしてこれをベースに機能が拡張された CADIX OHM-XID が販売されました。
そのころ、CADIX からリリースされた回路図エディタも CADCAM Group の ECS と同じもののようでした。当時、UNIX ツールのWindows への移植が始まっていましたが、Windows ツールからUNIX への移植は珍しかったように思います。このような現象に疑問を感じつつも、自分たちの販売している Massteck 製品の技術水準の高さに自信を持つことができました。
1995年にMassteck がOrCAD に買収されるまでの間、数多くのデモをこなしました。自慢げにデモをすると大抵は驚いてもらえましたが、相手を驚かせただけで終わってしまう事が多く、あまり多くの売り上げを得ることはできませんでした。また、このようなデモによる直販に加え、MM-2 用オートルータとして、いずみや IC さんにも販売していただきました。
Massteck の半自動配線ツールの完成度は、1992年に発売されたMaxRoute Plus Ver. 4x が最も高く、デモをしていても大変面白かったように記憶しています。今の高性能なWindows 環境で使えばどんなにすごいことになるか、一度試してみたいと思いますが、残念ながら手元にMaxRoute はありません。
MaxRoute の販売で想定外だったのは、Masstek と PADS との間で PADS 用 MaxRoute の独占販売契約が結ばれたことでした。この契約により、PADS との併売を目的に MaxRoute の輸入を始めたのにもかかわらず PADS 用の MaxRoute の輸入ができなくなり、PADS の国内販売元であるキョウデンから仕入れなくてはならなくなってしまいました。
とにかく、売り上げよりもむしろ海外人脈の開拓と、商売の彩りに大きな貢献があった Massteck でした。