小型化された ALTEC A5の音

投稿日: カテゴリー: Live AUDIO

試行錯誤を繰り返した結果、ALTEC A5  の風貌を保ちつつ何とか一人で持ち運べる大きさまで小型化され、音質的にも納得できるものができました。しかし ALTEC A5 の音が再現できた訳では無く、まったく別物と言えるくらい違ったものになってしまいました。

音が似ているかどうかを数値で表すと、たぶん 10% くらいになるでしょう。ALTEC A5  の音は ALTEC の主力商品として、際立った個性を持った部品を使って練り上げられたものです。この為どこを変えても音は大きく変化し、特に今回のような模造品の寄せ集めでは、同じ音を望む術もありません。

しかしそれは A5 とは音の傾向が異なるという事であり、絶対的な音の評価ではありません。また A5 ではなくALTEC 製品の平均的な音の傾向に対しては、50% くらいの ALTEC 度を達成できているのではないかと勝手に考えているところです。

とはいうものの A5 の音への未練が無い訳ではありません。特に アコースティクな音源に対する A5 の音の生々しさは垂涎ものです。このため最近は HF(高音部)に日本で販売されていた ALTEC A5 の構成に近い、311-60 ホーンと288 用純正のアルミダイアフラムを使う場合が増えきています。このプロジェクトでは本物 A5 の代用品を目指していますので、純正のALTEC 部品は遠ざけたいところですが、さすがに純正品を使うと一気に ALTEC  度が高まります。

本物の ALTEC ホーンを使う

ALTEC 純正の 311-60 ホーンを使う機会が増えてきている。311-60 は 国内向け A5 に使われていた  311-90 の水平指向性を 60度に制限したものであり、311-90 より一回り小さい。仕様上は 300Hz から使える事になっている。サイズ的にもウーファーのキャビネットと良くマッチする。

288 純正ダイアフラム

この 288用の 純正ダイアフラム 23763 を使うとALTEC A5 の音に近づく。ALTEC 創業後、この 23763 は早い時期に登場し、長期に渡って使われた。音は明るく乾いており、Hi-Fi 調でヌケが良い。まさに A5 の音造りのエッセンスでありA5 サウンドの源泉。一度聴くとこれしか無い!と思ってしまうほど魅力的な音がする。ただし許容入力(連続ピンクノイズ)は 299用 25884 の 50W に対してこちらは 15Wと極めて小さい。この為、大音量が要求される現場では使えない。尚このダイアフラムは現在でも新品が入手できる。

ダイアフラムの選択肢

上-左:純正 299用 8Ω – 25884
上-中:純正 288用 8Ω – 23763
上-右:純正 291用 16Ω – 21531
下-左:互換品 アルミ製 8Ω
下-中:互換品 アルミ製 8Ω
下-右:互換品 チタン製 8Ω
互換品を含めて多くの種類のダイアフラムがあり、今でも新品で中手できるものもある。常用しているのはこの写真の右下に映っているチタン製のもの。A5 サウンドに拘らなければ PA 用にはこのチタン製のものが最適。写真に写っているものは 21531 を除いて新品が入手できる。

クロスオーバー周波数

大型の 2 ウェイスピーカーの場合、どうしても楽器の基音や低次の倍音付近ででクロスさせることになりますので、クロスオーバー周波数の選び方によって大きく音が変化します。

500Hz、800Hz、1200Hzあたりが良く使われますが ALTEC A5 は 500Hzでクロスさせており、A5 のクリアな中音はこの低いポイントでのクロスによよって実現されています。尤も実際にクロスポイントを変えてみると、ALTEC系のシステムではあまり大きくは変わらないという印象を受けます。しかし良く聴くと周波数が上がるほど中音の明瞭度が失われ、平面的な音に変化していくのがわかります。

ALTEC A7 にはクロスポイントが 500Hzのものと、800Hz のものがありますが、ある映画館で 500Hz のものから 800Hzのものに交換したところ、任侠映画に主演する高倉健さんの声が耳元に迫って来ない、というクレームが出たそうです。もし本当にこのような違いが有るのであれば、マフィアのボスの声も 800Hz ではダメかも知れません。またジャズを聴いても同じような違いが出るかもしれません。しかし一方、これよりも高い 1200Hz あたりまで上げると音は引き締まり、ビート感のあるポップス向きの音に変化します。

N501-8ALansing Heritage から引用

50年ほど前にこんな例え話を聞いた事があます。ALTEC は 100m 先で「音楽」が聞こえた。ジムラン(JBL)は 100m 先で「音」が聞こえた。TANNOY は100m 先で「音」が聞こえなかった。というものです。真偽は別としてこれは三者の違いをうまく言い当てていると思います。この頃 ALTEC のクロスポイントは 500Hz で JBL と TANNOY は 1200Hz 付近でした。スピーカーユニットの能力もさることながらこのクロスオーバーポイントの設定が音の到達力に大きく影響しているように思います。

というわけで 500Hz でのクロスは、小型化した代用品であっても譲る事はできません。いずれにせよ HF(高音)部についてはホーン、ドライバー、ダイアフラムに多くの選択肢がありますので、ステージの内容に合わせて使い分けています。